ワカメ(若布)
ワカメ Undaria pinnatifida (Harvey) Suringer

褐藻類コンブ目アイヌワカメ科の食用海藻。ワカメは日本および朝鮮半島沿岸に分布し,日本では,暖流の影響のある北海道の西岸から広く九州まで及ぶ。低潮線付近から漸深部にかけての岩上に生育し,春から初夏にかけて繁茂する。藻体は根,茎,葉よりなり,全長1〜2mになる。暖海のものは茎部が短く,葉部の切れ込みも少ないのに対し,寒海のものは茎部が長く,葉部の切れ込みが深い。このように産地によって形状に差があるので,ワカメは分類上は1種類であるが,ナルトワカメ,ワカメ,ナンブワカメの3型に分けられることもある。
 われわれがふつうにみるワカメは胞子体で,春〜初夏に藻体の基部近くに耳たぶ状の胞子葉をつくり,その表面に微細な棍棒状の胞子臥を密生する。各子臥内には32個の遊走子ができ,海水温度が約14℃以上になると胞子の放出が始まる。遊走子は長さ8〜9μmのナス形で,側方に長短2本の鞭毛をもって泳ぎ,基物につくと球形となり,発芽して微細な糸状の雌雄の配偶体となる。夏が過ぎて秋になり,海水温度が約20℃以下になると,配偶体は成熟して卵と精子をつくり,受精が行われる。受精卵は分裂してふつうにみるワカメの藻体に発育する。すなわちワカメは大型の胞子体と微細な配偶体との間で世代の交代を行っている。
 現在生産されるワカメは養殖が主体で,化学繊維製の細いロープなどに遊走子を付着させ,夏季に屋内タンク中で培養したのち,秋に太いロープに巻きつけ外海にはり出して養殖する〈はえなわ式〉が行われている。この方式による養殖ワカメの年間収穫量は約10万tで,これに対して天然ワカメの漁獲量は3000t程度である。
 ワカメは《古事記》《万葉集》などにもその名がみられるように,古来食用として親しまれており,おもに若い茎葉部を食べる。主成分は表1に示すように糖質であるが,タンパク質と灰分もかなり含まれる。表2におもな加工品を示すが,このほかに茎や根の部分を利用した茎ワカメ,根ワカメも市販されている。
 近縁の種にヒロメ Undaria undarioides(Yendo) Okamura とアオワカメ U. peterseniana(Kjellm.) Okamura があり,いずれも食用となるが,品質は劣る。前者は房総半島から紀伊半島にいたる内湾の深所に生育するのに対し,後者は寒流域を除く日本各地沿岸の外洋に面した海のやや深所に生育する。 山口 勝巳+千原 光雄

[食用]  古来日本人は海藻のなかでワカメを最も重用し,海藻の総称である〈布(め)〉の語は同時にワカメをさすものであった。今も北九州市門司の和布刈(めかり)神社や下関市の住吉神社で和布刈神事が行われているのはそのためかと思われる。《延喜式》には海藻根(まなかし)という名が見られるが,これはワカメの根の意味で,現在いうところの〈めかぶ〉と思われる。春から初夏にかけての採取したばかりの生ワカメには格別の風味があるが,一般には干しワカメが用いられる。水でもどし,刻んでみそ汁,酢の物,煮物などにする。めかぶはすりおろして,調味した汁でのばして〈めかぶとろろ〉をつくる。山陰地方では幅の広い良質の葉を〈めのは〉と呼び,火であぶってもみくだいて熱い飯にかけたり,酒のさかなにする。
                        鈴木 晋一


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