左右優位
さゆうゆうい lateral preference

手足などで左右どちらかが他に対して優位であること。人間の身体は左右で同じ形をした部分が多い。たとえば,手,足,目,耳などは左右にそれぞれあって対をなしている。これらの身体部分は,つねに左右両方が使用されるわけでなく,一方だけを使用する動作や状況がある。手を例にとれば,文字を書いたり,絵を描いたり,ボールを投げたりする場合である。両方の手でなく一方の手を使用したほうがより効率がよいのである。このような状況では,右側あるいは左側の一方のみが使われる。
[利き手,利き足,利き目,利き耳]  この現象が手についていえば利き手であり,足についていえば利き足,目についていえば利き目,耳についていえば利き耳である。利き手の研究はかなり多いが,利き目,利き足,利き耳の研究はこの順で少ない。利き手,利き足,利き目,利き耳などを決定する方法について,一定のものがあるわけではなく,いろいろな項目が使われている。利き手では,物を投げるときにどちらの手を使うか,消しゴムで紙に書いてあるものを消すときはどちらの手を使用するか,絵を描くときどちらの手を使うかなどで決めることが多いようである。利き足は,ボールをけるときどちらの足を使うか,いすの上にのるとき初めにどちらの足をのせるかなどで決められることが多い。利き目は,鍵穴をのぞくときにどちらの目を使用するか,鉄砲で照準を合わせるときにどちらの目を使用するかなどで決定されることが多い。利き耳の研究はきわめて少なく,利き耳の存在を疑う立場もある。閉じたドアの後ろで会話をしていたとして,それをドアに耳をあてて聞くとしたら,どちらの耳を使うか,とか,他人の心臓の鼓動を聞くとしたら,どちらの耳をその人の胸にあてるかなどで決定しようとする試みがある。
 人間では,利き手,利き足,利き目,利き耳が右であることが圧倒的に多い。右手が利き手のものが全人口の約90%,右足が利き足のものが約80%,右目が利き目のものが約70%,右耳が利き耳のものが約60%といわれている。利き手,利き足,利き耳では女性のほうが男性よりも右利きのものが多い。利き目では男性のほうが女性よりも右利きのものが多い。
 利き手,利き足,利き目,利き耳について,右利きあるいは左利きというように二分法で記述されることが多い。しかし,人によってはどちらとも分類しにくい左右ともに利く人もおり,両者は二分されるものでなく,連続的なものと考える方が妥当とされている。
 利き手,利き足,利き目および利き耳などの個人における一致度はどうかというと,利き手と利き足の関連は強いが,他の組合せでは関連は弱い。したがって,利き手,利き足,利き目および利き耳のすべてに共通する要素は大きくないと考えられる。
[左脳と言語]  人間の大脳は左右二つの大脳半球,俗にいう左脳と右脳から成り立っている。19世紀の中ごろ,ダックス M. Dax や P. ブローカによって,失語症が左脳の損傷で起こり,右脳損傷では起こらないことが明らかにされた。このことから,左脳は優れた言語機能をもっているが,右脳の言語機能は劣ったものがあることが推定された。この説はスペリー Roger Wolcott Sperry(1913‐94)やガッザニガ M. S. Gazzaniga による分離脳の研究で実証された。したがって,左脳は〈言語脳〉あるいは〈言語についての利き脳〉といってもよいかもしれない。
[言語脳と利き手]  ダックスやブローカは左脳が言語をつかさどっているという学説を唱えたが,その後,利き手と言語脳が関連することが明らかにされた。すなわち,右利きの場合はそのほとんどすべてにおいて,左脳が言語をつかさどっているが,左利きの場合は,左脳が言語をつかさどっているとはかぎらないのである。左利きの約40%は左脳が言語をつかさどっており,他の40%は左右両方の脳が言語をつかさどっており,残りの約20%は右脳が言語をつかさどっているといわれている。
[利き手と利き足の原因]  右手足の運動機能の中枢性統御は左脳でおもに行われており,左手の運動機能の中枢性統御は右脳でおもに行われていると考えられる。そこで,右手利きは左脳が言語脳であることが原因で生じたものであるという説がでてくる。しかし,この説は左利きでは,左脳が言語脳であるものがかなり多いので,左利きの原因を説明することがむずかしいという難がある。また利き目や利き耳の生ずる原因は,現在のところ,はっきりしていない。⇒左利き
                        杉下 守弘

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